エージェント活動 2020.08.15 UpDate

SATURDAY, AUGUST 15, 2020

あの頃、僕は・・・

お盆だから、なのだろうか


ふと昔のことを思い出した


過去を振り返らず、いつも明るく前向きにしか物事を考えない、天然ポジティブ・シンキンガー(このような言葉があればだが)の私にしてはめずらしい


せっかく思い出したので、いつもとは違う語り口で書いてみよう


 


あれは私が業界に入って日の浅い、30代前半のことだ


当時の私は空手バカ一代にでてくる「熊殺しのウィリー」こと、ウィリー・ウイリアムスと戦うことを夢みて、筋トレはかかさないが脳トレはしていないと言う、思い出すのも恥ずかしい派手なスーツを着ていた時代のことだ



私は事務所で一人、リクライニングの椅子を上下させながら、今宵、飲みに行く店を考えていた


記憶があいまいではあるが、21時ごろだったと思う


一本の電話がなった


査定依頼、すぐに来て欲しいという


朝一番と、夜遅くの電話はよくない話が多い


とりあえず行くと返事をして電話を切る


住所をゼンリンの地図で確認する


場所は事務所から車で30分程の閑静な住宅街エリア


布団レンタルや販売を行っている、店舗付き住宅だった


 


到着し、内部を確認してから売却の理由をヒアリングした


対応をしてくれたのは齢40代後半と思われる女性とその母親であった


売却理由を問う私にたいして


最初、戸惑うように見つめあう二人


意を決したように女性が口を開く


「主人が帰ってこなくなった。そのあと金融屋から電話があり、借金の返済が滞っているが主人と連絡がとれなくなり困っている。ついてはそちらの不動産に抵当権を設定しているので行使する。すぐに立ち退いて欲しいと言われて・・・」


うつむきながら、言葉少なに語る


時間をかけて聞いた話を整理してみた



  1. ご主人が帰らずに1週間が経過_警察に連絡して状況を説明したが、状況から事件性は低いと判断された

  2. 金融屋は限りなくグレーに近い業者であったが、表向きは正規の貸金業者だった(私も何度かは渡り合ったことのある、ある意味では名前が知られている業者_当然のように在籍者の着用スーツはお花畑の様にカラフル)

  3. 債権額は1200万円とのこと

  4. 借入金を返済する貯金はない

  5. 国金から事業資金を2000万円借りている(残債は1300万円ほどある)速やかに立ち退けば、こちらは金融屋が対応して借金を相殺してくれると言われた

  6. 知人に相談したところ、値段は下げればこの辺りなら時間をかけずに売却が出来るのではないか。事件案件に強い業者に心当たりがあるので連絡先を教える。一度、相談してみてはどうかと言われて電話した



ここまで情報を得れば、時間とのたたかいとなる


その金融屋は動きが早い


せめてもう少し早く相談してくれれば、いろいろと打つ手もあるのだが、金融業者は競売ではなく任売交渉に入ってきている(そもそも金融業者は競売をおこなわない。短期で回収できる任売交渉のスピードは見事だ)奥様は借用証書をみたことがないと言っていた。


見なくて想像がつくが、押さえどころは全てを満たした契約書になっているはずだ


すでにアクションを起こしている所をみると一括弁済条項を適用できる条件を具備しているだろう



私が提案した内容は以下の様なものだった



  1. 概算ではあるが査定金額は3600万円である

  2. 時間的に通常の仲介ルートに乗せるのは無理がある

  3. 買取業者に打診するが、価格は上限でも3000万円程度であること

  4. 資産家のクライエントに打診するが、提示金額は3300万円から始め、下限は買取業者と同等になる可能性が高いこと

  5. 取引が出来たとして、債権を処理し経費を差し引くと手元に残るのは300万円が目安であること

  6. 状況から考えると国金の債権は圧縮出来る可能性が高いが、今回は時間が無く難しい事

  7. 今回のケースでは、失踪宣告による相続は出来ないので不在者財産管理人の申請を家裁に行わなければならない。まず警察に失踪の届け出を受理させ、後日、私と同行して家裁に行く必要があること。その場合においても移転登記が出来るまでには、6か月以上の期間を必要とすること

  8. 本来であれば権限外行為の許可を家裁から受けてからでなければ媒介活動は出来ない。今回は異例として水面下で動くが決して口外しないこと

  9. 金融業者は、あの手この手で立ち退きを迫ってくるが、絶対に応じないこと。強要される場合には私に連絡をすること


実際には、これ以上の細かい注意を与えてはいるが、一気に説明をしたのでおそらく話の半分も理解できていなかったと思う


翌日から買取業者や資産家に対してのアプローチを開始して、すぐに内見を3件ほど取り付けた訳ではあるが…


なんてことは無い、結末は哀れなものだった


依頼を受けてから5日後に電話があり「出ていくことにした」


あわてて訪問して、話を聞いた


金融業者からの度重なる電話


苦し紛れに、私に売却相談をしたことを話したら、夜討ち朝駆けの訪問


母親も疲れてしまい、自分自身も疲れた


金融業者はすぐに出ていくのであれば引っ越し費用で100万円くれると言う


主人名義のこの家には、もう未練が無いので早く終わらせたい


家ではすでに引っ越し準備が始まっていた


ポツリポツリと言葉少なに話す横で、母親が時折、鼻をすすりながら和室の畳を拭いている


同じところを何度も何度も…



正直なところ言いたいことは幾らでもあった


買取の話をした先には謝罪にいかなければならない


先手をうつため他の業務に先駆け、動いたが手間賃すら出ていない


でも何も言えなかった


いまならもっと上手くできるだろう。正規の委任状を取り付け、金融屋に乗り込んで契約書を確認して交渉に入る。経験と知識の浅い当時はそこまでの知恵も回らず、売り先行で動いてしまった


「あの子もね、立ち退けば良かっただけなんだから、なにも、逃げなくても良かったのに…」


母親がポッリと呟いた言葉が今でも忘れられない



相続、離別、立退き


不動産という財産に関わる仕事をしていると人生の縮図とも言うべき場面に何度も立ち会う


出来れば


涙より、笑顔が見たい


恨みより感謝が聞きたい


幸せになる手助けを、1件でも多くしたい


 


知識は力、経験は武器、思いは強さ


前を向いて生きよう


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